ある日の悲劇

焦げるお好み焼き

大学時代世話になった先輩誘われ、大阪の某繁華街へ飲みに出掛けた。その後、いくらか酒の作用も働いてか、先輩は「家でボードゲームをしよう」と言い出した。

彼は無類のボードゲーム好きで、かねて用意していたそれを楽しもうと何度か試みたものの、いかんせんプレイ人数に友人が不足している彼には1度としてそれを楽しめたことはなかった。

私はまたその悲しい現場に立ち会わなくてはならないのかと思うと気落ちだったが、聞けば今回は彼の嫁の連れが既に家でお好み焼きパーティーをしているとの話である。

彼の嫁とすら面識のない私には多少の抵抗はあったものの、酒の効能により気がつけば彼に付いて行っていた。

 

中へはいると、男と女それぞれ二人ずつが正方形の机の二辺に座していた。

女は早くもへべれけで、男はいかにも拘りを持ってお好み焼きを整え、もう一方は日本人離れした顔付きでそれを見つめている。

特に各々を紹介する訳でもなく、群を抜いてへべれけな嫁の話の流れを聞くと、女とお好み焼き奉行の男は嫁の地元の友達で、もう一人はその友人の男の彼氏でフィリピンから来たらしい。

冗談のような情報量の多さだが、何か自然な空気で全くそれが本当である事は了解された。

私は何思う事もなく、ただお喋りな先輩とその嫁との話を聞いてたが、それが子供の話に移るや否やすぐに不穏な空気に差し掛かった。

すると、何が火切りになったか定かでないが、気が付けば嫁は夫たる先輩に対し猛然と夫婦のセックスレスについて訴えかけていた。

飛びかからんとばかりに「1ヶ月に3回では出来る子供も出来やしない。自分の親は自分を産むのに週3回はやっていた。」などと吠えた。それに対し先輩は「命中率は人によって違う。」などと言って応戦していた。

私はこの争いをどうにか治めようと努めていたが、1度燃えた火を水に流すのも難しいらしく、悪戦苦闘しながらふと他の皆を見ると、奉行は唖然とし、女はそれを見ながら旨そうに酒を飲み、フィリピン人は話の要領を得ないのか未だ妙な笑みをしてそれを見つめていた。

私は何か馬鹿らしい気持ちになり、彼らのいざこざに干渉するのを止めた。

 

それから暫くして、お好み焼きの焦げ始めたことに気が付いた女の声で、喧嘩は止んだ。ホットプレートの熱を切ると、上手い具合に彼らの熱も冷めていった。それからは若年夫婦らしい仲睦まじさで、こちらまで幸せにさせらる様な良い空気が流れていた。先輩も念願のボードゲームを楽しみ満足げでよかった。

ただお好み焼きは不味かった。焦げた分、当然苦かった。が、それも何か一興に思えた。人生に苦さは付き物だと誰かはいったが、それがまさに言い得て妙であるとこの時感じられたのである。

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コメント

  1. 薄い本なら先輩の代わりに……という展開 eringi eringi eringi

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