セブ島買春編

セブ島買春編

その日、僕らはセブ島のある有名なショッピングモールに来ていた。

 

「これじゃあ日本と何も変わらないよ。」

彼が呟く。僕も頷く。昨夜、熱気溢れる露店街で人の波に飲まれた僕たちにとって、そこはあまりにも退屈だった。無機質で清潔感の溢れる館内が肌寒く感じるのは冷房が効き過ぎていたからかもしれない。海外の高級ブランドが並ぶフロアを僕たちはしらけた顔で歩いている。

 

「オニイサン、LINE !」

「オニイサン、カッコイイ!」

派手な化粧の若い女の子達が声を掛けてくる。入り混じる香水の匂いで吐き気を催す。やれやれ、こんなのあからさまに売春じゃないか、と僕は思った。

「悪くないね、君はあまり乗り気じゃなさそうだけど、」

彼はこの類の話になるといつもそう言った。

「あまり乗り気じゃないね、ただ、君が何をしようと僕に止める権利はないな」

僕は答えた。

そして彼は、好みの子を選んでLINEを交換した。彼女はステファニと名乗り、マタネと手を振りながら去って行った。

「そろそろ僕らも戻るか」

そう言って彼はペプシコーラを飲む。残りの半分を一気に飲み干す。興奮を抑えるように、

また、何かを飛び越えるための助走のように。

 

ホテルに戻るとステファニから何件もの通知が届いていた。

「you kakkoi.」

「I’m a pay girl.」

「I want to meet you.」

「10000yen」

「I have many condooms」

 

1万円は現地の平均月収の半分に値する。彼女らはそんな大金をどうするのかと思う。

「君はこれからどうするつもりだい?」

僕は心配するような目で言った。

「7000円に値切ってみるよ、そしてこの部屋に呼ぶ。君は部屋で見届ける?もしくは外をふらつく?」

「外をふらつく」

彼がSEXする間、僕が何をしようが自由だ。カジノで一儲けしてもいいし、もう一度露店街に行くのもいい。キャバクラで女を引っ掛けたっていい。悪くない選択だ。僕は彼に微笑む。少し間が空く。僕はセブ島4日目で少し疲れていたのかもしれないし、彼は緊張と興奮が入り混じった気持ち落ち着かせていたのかもしれない。ペプシコーラーの蓋をあけると炭酸の弾ける音が響く。

 

「ステファニがフロントに着いたって、降りてきて欲しいだって」

彼が言った。

僕はカジノ用に襟のついたシャツに着替えて一緒に部屋を出た。

ステファニは彼を見つけると、すぐに首に抱きついた。吐き気がする。僕がひどくステファニを嫌う理由は苦手な香水のせいだ。あるいは、最近台湾人ヘルスで痛い目を見たからかもしれない。いずれにせよ、そんなことは彼には関係ないことだ。腕を組みエレベーターに乗った彼の背中にグットラックと呟く。

 

さて、と出来るだけざわめく心を抑え、カジノに向かうためにタクシーに乗り込んだ。

 

 

帰ってくると部屋に彼はいなかった。屋上の喫煙所に向かう。

彼は才能の枯れきったピアニストのような顔をして座っていた。

「それで、ステファニは?」

僕はポケットからセブンスターを取り出しながらそう言った。

「ステファニはどうだった?」

ただ彼は黙って首を振るだけだった。

 

最後に良い土産話ができて良かったじゃないか、そう言って彼の足元にペプシコーラを置いた。

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コメント

  1. なにがダメだったんだろうな……。

  2. ニューハーフだったとか?

  3. 臭いだろうな

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